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東京地方裁判所 昭和28年(ワ)3534号 判決 1957年12月07日

原告 佐藤定雄

原告 高野義夫

右両名代理人弁護士 江口高次郎

右復代理人弁護士 矢吹重政

被告 鈴木信男

右代理人弁護士 染木勇蔵

主文

原告等の所有権不存在確認の訴を却下する。

原告等の保存登記抹消登記手続の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は「別紙物件目録記載の建物が被告の所有でないことを確認する。被告は原告等に対し右建物につき東京法務局麹町出張所昭和二七年一〇月一四日受付第一、五三四八号をもつてした所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

「原告佐藤は訴外飯野辰子に対し東京法務局所属公証人長谷川常太郎作成昭和二七年第一五四五五二号及び同年第一五四五五三号の各債務弁済契約公正証書による合計金二七万六、八〇〇円の貸金債権を有し、原告高野は同訴外人に対し同公証人作成同年第一五五四四二号債務弁済契約公正証書による金一二万一、三〇〇円の貸金債権を有している。

しかして別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という。)は訴外飯野の所有であるところ、被告はほしいままに本件建物につき東京法務局麹町出張所昭和二七年一〇月一四日受付第一五三四八号をもつて被告名義に所有権保存登記を経由した。そのため原告等は本件建物に対して強制執行による右各債権の実現を阻害されている。

よつて原告等は、右保存登記の登記原因である本件建物の所有権が被告に属しないことの確認を求めるとともに、訴外飯野に代位して被告に対し右保存登記の抹消登記手続を求めるため本訴に及ぶ。」

と述べ、立証として≪省略≫

被告訴訟代理人は、「原告等の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告等主張事実中被告が本件建物につき原告等主張のような保存登記を経由したことは認めるが、原告等が訴外飯野に対しそれぞれその主張のような債権を有することは知らない。その余の事実は否認する。本件建物は被告の父訴外鈴木清が被告のために支出した金員及び被告自身の所持金をもつて建築費に充て、被告が建てたものであつてその所有権は当初から被告に属するものであると述べ、

立証として≪省略≫

理由

一、確認の訴について

原告等は、本件建物は訴外飯野辰子の所有であると主張するに対し被告はこれを否認して自己の所有であると主張する。原告等主張のとおり訴外飯野に対し貸金債権を有するとすれば、右債権は債務者訴外飯野の一般財産によつて担保されるわけであるから、本件建物の所有権が訴外飯野に帰属するか否かは、債権者たる原告等の利害に関係する事柄である。しかしながら、確認の利益があるというためには、当該確認の判決をうること以外には紛争解決につき適切有効な方法がないことを要するから、他により根本的な解決方法がある場合には確認の利益がないといわなければならない。ところが原告等は本件建物が訴外飯野の所有であることの積極的確認を求めるという抜本的な紛争解決の方法があるにもかかわらず、本件においては右訴をなさず、却つて本件建物が被告の所有でないことの消極的確認を求めるものであり、これによつては本件建物の所有権が訴外飯野に属することは確定されないから、紛争解決の方法としては中途半端なものといわなければならない。従つて原告等の本件確認の訴は確認の利益を欠くものとして却下をまぬがれない。

二、保存登記抹消登記手続の請求について

本件建物について原告等主張のような保存登記の存在することは当事者間に争がない。

そこで本件建物が訴外飯野の所有であるか否かの点について考えるに、成立に争がない甲第一号証、同第四号証ないし同第六号証、同第九、第一四、第一六号証を綜合すると、訴外飯野は訴外清水武雄を代理人として昭和二六年三月三〇日旅館用として本件建物の建築許可申請をなし、同月三一日その許可を得たこと、本件建物が東京都文京税務事務所備付の家屋補充課税台帳に訴外飯野の所有名義で登載されており、訴外飯野が本件建物に居住し昭和二七年三月頃から同年八月初旬頃までの間同人名義で旅館業を行つていたこと、本件建物につき訴外飯野を所有者として同人に対し昭和二八年度の公課が査定されていること及び被告は本件建物の建築許可申請当時は満二〇才(昭和六年二月一日生)の学生であり、住民票において訴外飯野の同居人であつたことが認められ、これら一連の事実と証人飯野辰子の証言によつて認められる訴外飯野が被告の父訴外鈴木清の妾であつて、当時同人との間に子供まである間柄であつた事実とを併わせ考えると一応本件建物の所有権は訴外飯野に属するものと推断しうるようにも見えるが、前出の甲第一六号証、成立に争がない同第八、第一七、第二四号証、証人鈴木清の証言、被告本人尋問の結果同証言及び本人尋問の結果によつてその成立を認めうる乙第一号証の一ないし一六、同第二、第三号証を綜合すると、本件建物は被告の父訴外鈴木清が材料を支給し、資金を出して被告のために建築したものであつて、訴外飯野のために建築したものではなく、かの本件建物の建築許可申請が訴外飯野名義でなされているのは、訴外鈴木清が当時茨城県多賀郡礎原町中町七二六番地に居住しており、被告もまだ学生であつたので、建築許可申請手続一切を訴外清水武雄に一任したので、同人において便宜上建築許可申請名義を訴外飯野名義としたものであることが認められ、成立に争がない甲第一八号証、証人飯野辰子の証言に徴すれば、訴外飯野においては当時本件建物の建築許可申請が自己の名義でなされたことを知らず、またその後においても本件建物が被告の所有であるとは考えていたが、自己の所有であるとは全然考えていなかつたことが認められ(右認定に反する証人倉岡厚の証言は信用できない。)、この事実もまた右認定を支えるゆえんである。しかして既に本件建物の建築許可申請名義が訴外飯野となつている以上所轄税務事務所の家屋補充課税台帳に本件建物が訴外飯野名義で登載され、従つて昭和二八年度の公課査定が訴外飯野に対する関係においてなされることもありうべき自然の成行であり訴外飯野が訴外鈴木清の妾であつて本件建物に居住し、一時自己名義で旅館業を営んだことや住民票に被告が世帯主訴外飯野の同居人と表示されていることによつては右認定を覆えして本件建物が訴外飯野の所有であるという原告等の主張を認定するに足りないし、その他原告等提出援用にかかる全立証によるも右認定を左右するに足りない。

しからば、本件建物は訴外飯野の所有ではなく、その竣工と同時に被告の所有となつたものと認めざるをえないから、原告等主張のその余の点を判断するまでもなく、原告等の被告に対する保存登記の抹消登記手続の請求は理由がなく、棄却をまぬかれない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用し、主文のとおり判決する。

(判事 守田直)

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